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井の中の蛙

物語

井の中の蛙という言葉がある。


井の中の蛙、大海を知らず。
僕が思うに蛙はいずれ大海を知ることになると思う。

井の中で毎日を過ごす蛙は井の中を全て知り尽くしていた。そりゃもう、水が湧き出る位置から石のくぼみ具合まで隅々まで蛙は手に取るように分かった。
ただ一つ蛙には分からないことがあった。それは井の中に住む蛙の頭の上のことだった。幸か不幸か蛙の目は下でも横でもなく顔の上にあったので、井の中から見上げる頭の上の景色は否応無く気になった。
「あの上の方はいつも違う。明るいときも暗いときもあって、青かったり赤かったりする。いったいどうなってんだ?」
最初のうちはそれほど気にもとめず井の中の平穏な毎日を過ごしていた蛙も、日に日にあの井の上がどうなっているのか気になっていった。
そうして蛙はどうにかして、あの上の方がどうなっているのか知りたくなった。


しかし、井の中のあの上の方は蛙にとってとんでもない高さだ。それから蛙は毎日毎日井を登る努力をし始めた。
最初はすぐに力つきていた蛙も、井の中には自信があった分上までたどり着くのに長くはかからなかった。
井の中から出た蛙の目には向こう側の終わりの無い、ただただずーっと続いてる緑と井の中からいつも見ていた青が広がっていた。


井の中の蛙はきっと恐怖を覚えたと思う。それは自分の知らない世界を知ったからではない。「井の中の蛙」という言葉を知ることに恐怖を覚えるのだ。
井の中から出た今、終わりが無いくらいまで世界が広がっている。いつの日かこの世界の全てを知ったとしてもやはりそこは「井の中では?」という思いがわき上がるのだ。
終わりの無い世界は想像の中から生まれるのだ。


どんな環境であっても「井の中の蛙」は良い教訓だ。何がすばらしいって、それは空があるところだ。
必ず世界を知る窓口があって、しかも努力をすれば手に届くところにあるのだ。
情報化が進んだ現代では窓口もすぐに見つけることができる。そんな世の中だからこそ、その井の中から飛び出してさらに次の空を探し求める蛙でありたいと思う。