連載|深淵の街
日付はすでに変わっていた。
暖かい布団でまどろんでいた私は、まだまだ肌寒い暗い闇へと足早に出かけたのだ。
月も出ない夜と言えど、街中は街灯の明かりで静かに様子を伝えている。
いつものT字路に差し掛かり、黒いバンが近づいてきた。
そこで普段は不気味に光る信号機が鳴りを潜めていることに気づいた。
交差点で立ち止まり、バンを先に行かせようと見送っていたとき、闇に紛れた警官が交通整理をしていて、わたしはいよいよ状況をのみこみ始めた。
通りを挟んで向こう側は深海のような虚無の街並が佇んでいた。
高度に人為的に作られたその区画には、ほんの少しの呼吸すら見つけられない。
ただただ恐ろしい沼地にグズグズと沈んでいくようで。
ブヨブヨの重い空気をかき分けるように進んだ。
呼吸も一つならきっと淋しかろう。
それでも自転車に付けたライトのおかげで自分はここにいるとわかるのだ。