連載|秘密基地

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大学時代の半分はお菓子作りだけをしていた。

毎日ではなかったが、朝から出勤して夜まできっちりやって帰るという感じだったからほとんど普通に働いているようなもんだった。

1、2年で必要な単位はほぼほぼ取り終えていたこともあって、それ以降は必修単位を取るためだけに大学に行っていたという感じで、配属された研究室にもめったに顔を出さないという始末。

本当によくあんなやつを卒業させていただいたことに研究室の先生には頭が上がらないし、感謝しかない。本当にご迷惑おかけしました。

そんなわけだから同級生との付き合いはあったものの、研究室の先輩などとの付き合いはそんなになかったわけで。一度だけ研究室の先生やみんなと合宿という体で山奥の保養所に行ったのは今でも覚えている。

卒業後そんなに長くは経たないうちに諸事情でお菓子作りをやめた事もあって、学生時代に学んでいたデザインを改めてやろうとなって、自分としてももう一度頑張ろうと躍起になっていた。

どんなきっかけだったか今となっては思い出せないが、それまではほとんどと言っていいほど付き合いのなかった研究室の先輩と仲良くなり、たしか「今度、仲間とクリエイターズマーケットに出店するから一緒にやらない」みたいな話から一緒に長い時間を過ごしたように思う。

家は近くはなかったけれど、私はしょっちゅうその先輩の家に通っていた。研究室もデザインと言うよりは芸術系の先生で、先輩や仲間たちもそういう人が多かった。

その先輩はその研究室のまだまだ最初の頃の卒業生ということで、みんなの先輩という感じで顔も広かったし、何より先輩の部屋は研究室の工房みたいで、なにか面白そうなものがそこらにたくさん転がっているという空間だった。

意味もなく遊びに行くこともあったし、部屋に泊めていただくことも何度もあった。いつも怪しげで楽しそうなことをやったり試したりしているのが、自分にとっても刺激的で心地よかったのだと思う。

あのときはこんな毎日が続けばいいと本当に思っていたこともあるが、人間そうもいかないわけで、お互いに進む道があって、あまり合わなくなって久しいわけだ。

そんな折、先輩からの吉報を知ることがあり、らしいなぁと思いつつも、あの頃の秘密基地のように集まっていた部屋のことや、周りの先輩たちのことを思い出して、何もない日常の色鮮さに心を濡らすのだ。