3つのストーリーと本質を求める姿勢


ここ最近。2012年に入ってからのことなので本当にここ最近のようなことです。2012年は1月が終わって早くも1ヶ月ちょっとが過ぎてしまいました。今年は自分の中の考え方ややることを変えていこうと考えて、それを少しずつ実行しています。
「周りを変えたいと思うなら、まず自分を変えなさい」というのはよく言われる言葉ですが、自分を変えてみると周りも変わっていくというのはその通りなのかもしれません。私は少しずつ自分を変えていて、やることを本当に必要なことに絞って少なくしていったのですが、さまざまな学びを得る経験をできたように思います。
そのひとつに「本質を求める姿勢」とは何か?ということがあります。それはいくつかのストーリーを紡いでできた一つの線でした。

圏論とMathematics

1月に数学者で独立研究者の森田真生さんのお話を聞く機会がありました。高校生の頃までは理系で数学が得意科目だったのですが、デザインの勉強をはじめるようになって、数学らしい数学からはずいぶん遠ざかっていたように思います。
数学は数字を使った計算の学問だと多くの人が思うように、そう教えられたように私も思っていました。しかし森田さんは、数学で数を扱うのはごく一部だとおっしゃっていました。Mathematicsは学ぶことそのもので、学ぶ意志があれば学ぶことができる学問すべてだというふうに教えていただきました。
それから圏論についての話も簡単に教えていただきました。そのお話の中の一つにこんなような内容がありました。「何か対象の本質に迫ろうとしたとき、その対象だけを見るのではない。対象とその周りにあるものとの関係性をみつめることで、対象の本質・輪郭を浮かび上がらせていくのだ」と。こういった考え方や手法を見つけて、学ぶこともMathematicsなのだと知って、自分は随分と狭い範囲で数学を学んでいたんだと改めて思いました。

マーケティング・インタビュー

去年の夏あたりから、あることをきっかけにHCD(人間中心設計)の勉強に興味を持ちました。私は自分のデザインに自信を持てずにいたことから、いつも+αを求めていろいろなことを身につけようと学んできました。人間中心設計はものづくりをする人や何かを提供しようとする人からすれば当たり前のように思うことかもしれません。しかしそれをしっかりと実践していると言い切れる人は多くはないように思います。私自身もそうであり、そう思いながら不確かな指標を掲げては走っていたように思います。HCDのワークショップはそんな私にひとつのヒントを与えてくれたように思います。
HCDのワークショップに参加していて、すごく重要なことだと気づいたのはインタビューでした。HCDプロセスの各ステップを行なっていくにあたってインタビューから得られたものが常に関わっていて、ここでうまくいっていないと全てうまくいかないんだなぁとやってみて初めて感じました。
インタビューと言ってもさまざま種類があると思います。ただ聞けばいいんでしょと簡単に済ませられるものではないのです。失敗を感じてからどうにかインタビューについてもう少し学びたいと幾冊か本を読んでいましたが、「マーケティング・インタビュー」という本がどうにも良いようでした。
HCDにとってのインタビューの目的は、ユーザーの本質的な欲求とは何かを探りだすことでした。Steve Jobsは「人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかをしらない」と言っていますが、これはやはりその通りのように思います。マーケティング・インタビューでは例えば「何が欲しいですか」といったストレートな問いかけではなく、引き出したいことと関係のある事柄について尋ねつつ、その人の輪郭を組み上げていきます。そうして得られた関係性から本質的な欲求を導き出すという事をします。
人は何が欲しいのかを知りませんが、日常といういくつかのストーリーを語ることはできます。そういったストーリーの塊をみつめることで、その人が何を求めているのかを少しだけ覗くことできるのです。

プロフェッショナル・コネクター

プロフェッショナル・コネクターという言葉は初めて聞きました。勝屋久さんはプロフェッショナル・コネクターという肩書きで人と人をつなげるお仕事をされている方です。たまたま勝屋さんのお話を聞く機会がありまして、ちょうど自分ももっと多くの人と関わっていきたいと思っていたので、非常に興味を持って聞いていました。
お話の中で、「自分のおもろいところ」自分の生まれ持ったものを認識して、それをさらけ出すことが大切だとおっしゃっていました。自分のおもろいところって何だろう?それは多くの人が自分では気づいていないことです。では、どうやって見つけたらいいのだろう?それは他の誰かとの会話や関わり、コミュニケーションから見つけるのだと勝屋さんは言います。そして、コミュニーケーションは投げかけることと受け取ることの2つがあって、受け取るということが重要なんだと。確かに「ありがとう」をいうといったことは当たり前のように大切だと言われますが、「ありがとう」を意識してきちんと受け取ったことが本当にあっただろうかと考えてしまいます。
コミュニケーションには発することと受け取ることがあって、その両方をきちんとやって初めて人と人の間に関係性が生まれて、そしてその関係性を通して自分自身が何者であるかを知ることがようやくできるのかもしれません。そんなことを思いました。

関係性をみつめる

3つのストーリーに共通するのは、対象とその本質、そしてその周りにあるものとの関係性です。「何か対象の本質に迫ろうとしたとき、その対象だけを見るのではない。対象とその周りにあるものとの関係性をみつめることで、対象の本質・輪郭を浮かび上がらせていく」というMathematicsの考え方はこの短い間にもいろいろなところに顔を覗かせていました。そういったことを実際に体感しながら森田さんがわくわくしながら話していたことの輪郭に触れることができたように思います。個人的にはなんだかそれが嬉しくて、またMathematicsという目に見えないものに迫ろうとする学問をもう一度学んでみたいと感じたのでした。