連載|有彩色
その子の手元には16色の入ったクレヨンがある。
赤に黄色に青に緑に、茶色に紫色に灰色に黒に白に。
母親は鮮やかな色で描いてほしいと願うかもしれない。
空は碧く、陽の沈む頃にはやがて赤く染まっていくだろう。
その青から緋色に滑るように変化する空を、人は美しいと感じている。
そこには青や赤だけではない、緑も黄色も灰色もあるのだ。
母親はその空を見て、こんな空のように鮮やかに描いてほしいと願うかもしれない。
彼の見ている世界は、母親の見ている世界とは違う。
薄い色と少し濃い色と濃い色が混ざりあった世界だ。
それでも彼は鮮やかな世界を描けるだろう。
この世に鮮やかな色はあるが、存在はしないのだ。
渚を滑るディンギーで手を振る君の小指から
流れ出す虹の幻で空を染めてくれ